miyabi.nの上半期ベストアクト



新感線「直撃!ドラゴンロック2・轟天大逆転」
「夏の砂の上」
アイホール演劇ファクトリー第二期生散開公演「銀河鉄道と黄昏の夜」
ニュートラル「カーニヴァルの夜」
南船北馬一団「化粧」


ライオンキングとライオン金太の語路合せオチだけに、あれだけの手間ヒマかける「轟天」の馬鹿馬鹿しさ。無意味なギャグの洪水で、全編押し通す潔さ。たかがエンタテイメントにどっぷり浸かり、溢れ出す笑いの強靭さ。王道をひた走る新感線がたたみかけるギャグのスピードの心地良さにひたすら酔う。

黒白の陰影がくっきりした「夏の砂の上」。渇水と洪水に反転する水の恐怖は、照りつける太陽にまざまざと浮かび上がる闇のよう。原爆の光でハレーションした空に、人間の暗黒面が広がる。親子、夫婦の亀裂が広がり、反転する心理の怖さには、たじろぐしかないのか。絶望の淵にありながら、かろうじて立ち尽くす主人公をすくい上げて比類がない。

「銀河鉄道と黄昏の夜」は、タブルキャストの一方(ベガチーム)だけしか観ていないが実に残念。中央を舞台に二方向からの客席、「銀河鉄道の夜」を劇中劇に上演する劇団のツアー中のトラブルという設定が、演劇と現実の壁を限りなく近づける。全員の創作への熱意、新鮮でひたむきなエネルギーをひしひしと肌に感じる。

淡々とエピソードを積み重ね、あやうい人間関係の綾を描くニュートラル。水彩画のタッチで、愛しながらいつか来るだろう別れの予感に脅える幸せと哀しみがにじむ。味わいあるキャスティングも絶妙、その押さえ気味の演技もしっくりと作品に調和し、装置・照明・音響にもしみじみする。

その「カーニヴァルの夜」の装置を手がけた柴田隆弘の南船北馬一団。造り込まれた美術のみならず、暗転処理にまで神経が行き届いた舞台。スナックの女性たちを描いて、化粧の裏に隠された悪意を引きずり出す。が、けっして劇的に盛り上げることなく、日常の会話で静かに展開する手法が、現実の不気味さを強調する。


役者部門

楠見薫(遊気舎)「FOLKER」
上田一軒(スクエア)「祝福してみる」
鈴江俊郎(八時半)「大きな青の音」

楠見薫。「FOLKER」女囚役での登場シーンの目付きは、ただ事ではない。劇場空間を一瞬にして凍りつかせ支配する目線に込められた深い絶望。閉ざされた心理が解放されてからは、のびやかな笑顔を披露するが、立体感ある心理描写のうまさが、終始作品をリードする。

上田一軒。地なのか演技なのかわからない謎の魅力。しゃべらなくても、舞台にたたずむだけでなぜか可笑しい。

作家、演出家なのに役者として選ぶのは失礼かも、の鈴江俊郎。でも、大柄な身体で「だって、そうでしょ」とか言い出して、わかったようなわからないような不思議な説明を繰り出す鈴江の異能キャラに惹かれる。ちなみに、役者・土田英生も、ごひいき。