miyabi.nの下半期ベストアクト



199Q太陽族「それを夢と知らない」
文学座アトリエの会「みみず」
「RENT」
糾〜あざない〜「秋の扇」
満遊戯賊「レリカリーキューブ」
五期会「見よ、飛行機の高く飛べるを」

現在の関西小劇場をリードするのが太陽族と桃園会であることは衆目の認めると
ころだが、後に続くMONOも「その鉄塔に男たちはいるという」で存在感を示
す。が、劇団を挙げての圧倒的なコンビネーションを見せつけた「それを夢と知
らない」が、やはり今年後半で最も印象に残る。閉館される映画館を舞台に、
キャストひとりひとりが持ち味を出し、食い違う思惑と関係性を浮かび上がらせ
た。場末の埃まで立ち込めそうなリアリティあふれる美術を背景に、気まずい空
気を漂わす会話の間さえ考え抜かれた絶妙さを持つ。



その太陽族と桃園会が北村想作品をもって伊丹AI・HALLで競演したが、うまさが
光ったのは深津篤史の演出。戯曲の評価が高い深津だが、一昨年の「逃亡」など
凄みのある演出も忘れられない。「秋の扇」でも小空間を生かした息詰まる演出
を見せた。


「みみず」は、超売れっ子・内野聖陽を押し立て、文学座がここまでやるかの
ベッドシーンで有名になったが、骨太な坂手洋二の脚本に戦慄する。自由でエコ
ロジカルな生活を信奉する両親のグロテスクさ、レイプされた姉の事件をキッカ
ケに近親相姦に至る性の暴走が、みみずがのたうつごとく濃密に描写される。隠
された人間性の怖さを突き付けて秀逸。


「RENT」は、逆にエイズの時代に生きる勇気を示す。発症を脅えつつ金も家
もない「間借り」の若者たちは「愛は買えない、でもRENTできる。返さなく
ていい」と歌いあげる。代償を求めず無償であるという愛の本質が、ここにあ
る。その言葉通りをゲイの恋人に尽くしたエンジェル(KOHJIRO)の澄んだ声
は、観客の心に永遠に残る。


エンタテイメントに徹する満遊戯賊。デジタルなテンポがまさに今風、衣装・装
置・小道具等も手を抜かずにキッチリと作り込み、キレのある動きの役者が心地
よい。ベタの多い関西にあって、とりわけお洒落なセンスが光る。


役者部門

麻実れい/宝塚クリエイティブアーツ「ハムレット」
堀内敬子/四季「アスペクツ・オブ・ラブ」
陵あきの/宝塚宙組「エリザベート」
藤原竜也「身毒丸」
北沢洋/花組芝居「怪誕身毒丸・二子玉屋組」
市村正親「クリスマスキャロル」


期せずして、染五郎とのハムレット対決になった麻実れい。再々演とあって造型
にますます磨きがかかる麻実ハムレットは、もはや性別を超えた普遍性を持つ。
自立できない悩めるハムレットが、セクシャリティのあいまいな麻実と二重写し
となるからだ。すっくとした立ち姿の美しさ、安定した歌唱力のもたらすハム
レットの心情吐露は他に比類がない。



四季の誇る保坂知寿、井料瑠美、堀内敬子、三女優の競演となったアスペクツ。
それぞれの女の生き方の違いが鮮やかだが、中でも少女から大人へ変身する堀内
がダンスしながら、歌舞伎でいう引抜で早変わりするシーンに瞠目させられた。
いちばん年下のジェニーを、可憐さと芯の強さを同時に見せて好演。


エリザベートが訪問する病院の狂人を演じる陵あきの。本人に向かって「私こそ
エリザベート」と威嚇する彼女が、「代われるものなら、代わってあげたい。も
しも、この孤独に耐えられるなら」と歌うエリザベート(花總まり)の叫びに打
たれ、恐れから癒しへと変化する表情のすごさ。一瞬共鳴する二つの魂が、再び
慰謝と孤独に別れていく。焦点の合わない目線を飛ばす陵は、まるで暗黒舞踏の
人。フィナーレで大階段を降りるエトワールの華やかさを、まったく感じさせな
い迫真の演技に震える。


4位以下は、私としたことが男優が並ぶ。今でも白石加代子と五分で渡り合う藤
原は、将来想像すら出来ないほど化けるに違いない。ベテラン市村の強みは、ホ
ラーからコメディー何でも来いの幅の広さ。歌って踊れて芝居ができ、ミュージ
カルからシリアスなストレートプレーまで、まったくゆるぎがない。花組芝居
は、本当は曲屋組の佐藤誓+水下きよしが観たかったが(大阪公演はなし)、女
形をやらせてもひと味違う北沢の、今回はシッダルタ役をヒゲ面で熱演したのに
思わず見とれて一票。


維新派は、もはや演劇のワクではくくれない。建築現場、現代美術、パフォーマ
ンス、音楽、文学、思想哲学などの総合イベント。維新派がある限り、不況とい
われる大阪、いや日本もまだまだ大丈夫との元気が湧いてくる。