| 白状すれば選出でいつもズルイ手を使う。だって作品5本、役者3人は少な過ぎ、削るのにとても苦労するから。もちろん、集計する方はこれでも大変だろう
 が(ご苦労さま)。で、編み出した戦略が作品と役者をシャッフルして計8点選ぶ
 というもの。役者が輝くのも作品あってのこと、逆もまた真。例えば、「夜叉ケ
 池」ではなく浅田百合子も考えたワケ。作品全体の評価か、その中の役者に焦点
 を絞るか、それは好みということでお許しを。それと関西での上演が条件だが、
 ワタシ的に関西を本拠とする(名古屋、岐阜を含む)ということで考えてます。来
 阪公演では、阿佐ヶ谷スパイダース「悪魔の唄」と「ナイン」が衝撃。
 ユリイカ百貨店は劇団名そのままにレトロな百貨店が舞台。会場のアートコンプレックスを異世界と化す鮮やかな手際にいつも言葉を失う。時間はタイムスリッ
 プし、心は重力を離れて星空の彼方まで浮遊する。現実と夢想の区別はなく、生
 と死の境界もあいまい。けれど死者は記憶の中だけに存在し、戻って来ることは
 ない。追憶はせつないがゆえに、ただただ美しい。
 仮設劇場WAの競演で、南船北馬一団「シアン」は客席と舞台が渾然一体となった装置の巧みさで群を抜く。南船は常にゲーム感覚あふれるが、次々ひっくり返る
 展開が今回もスリリング。役を演じることと現実がカードの裏表めくるように転
 換する。舞台となる洗脳セミナーと演劇ワークショップは似る(どっちも参加し
 たことないけど)。間近で行われる芝居は観客が傍観者で済まされず、いつ舞台
 =現場に引き込まれるかわからない不安を掻き立てる。私案=思案(シアン)の指
 摘どおり社会は常に毒(シアン)に満ちている。
 これまた大阪の演劇祭として成果あげるクラシック・ルネサンスは、今公演後に惜しくも解散した芝居屋坂道ストア主宰の角ひろみ演出による「夜叉ケ池」。今
 思えば坂道の打ち上げ花火、集大成。ワークショップのアンサンブルを含め関西
 女優陣が結集、男優は赤星マサノリと山浦徹イケメン2人だけ。泉鏡花を手元に
 引き寄せる手腕は、もはや手練年増女(注:ホメ言葉です)。若妻を人身御供に捧
 げる村人を演じる女性アンサンブルに、女のイケズとオヤジのセクハラは近くて
 遠いと知る。衣装ヨダミカ(ト社や化石オートバイ、ピースピットなども手がけ
 る)もスゴイ。
 ヨーロッパ企画の魅力は、アイディア実現に至る実はしこしこマジメな作業奮闘にある。こだわりのチラシ、有料パンフや美術装置、絶妙間合いの会話に緻密な
 計算がうかがえる。変則交差の路地で出会う人々のシチュエーションコメディ。
 意外な出会い起こる人の道、人生はしょせん喜劇の連続、一生は死ぬまでの時間
 つぶし。
 これも演劇祭関連、精華小劇場でのオープニング企画「真夜中の弥次さん喜多さん」。少年王者館でもおなじみ、目の前で何度も同じシーンが巻き戻されるルー
 プは抱腹絶倒。人が床に消え、見えないうどんが姿を現す楽しさ。リアルと虚構
 の狭間をすり抜ける天野は演劇界のイリュージョニスト。
 自主企画した真野絵里との2人芝居「愛なんかで腹がいっぱいになる女」も熱演の奥田ワレタ。客演引っ張りだこは、コケティシュな大人の女と得体知れない幼
 女っぽさどちらを演じても無理ない引き出しの多さにある。アンニュイな笑いと
 ツッコミの早さ、そのアンマッチも魅力。
 武田暁には演劇の神の憑依を確信する瞬間がある。「群盗」は一度解体したカルトをひそかに再興しようとする小集団の話。元代表の子を流産したリーダーの狂
 気があまりに冷静なゆえ、逆に恐怖がこみ上げる。
 ババロワ得意は、軽妙お笑いコント。が、たまにがってん出来るいいお話も。今回は倦怠期同棲カップルの恋愛指南をテーマにしたサスペンスコメディ。が、看
 板の向田倫子は、主役じゃなく飛び道具的使われ方でやりたい放題。芝居うまい
 美人なのに壊れ方も並じゃない。(雅)
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