「直接KISS」以来の、ほどよく力の抜けたクロムが「ユカイ号」でも好調。女
優がケータイを演じることで、使いこなすのではなく逆にケータイに振り回さ
れる人間を皮肉る。それが異性とうまく距離を取れない現代の不毛な恋愛をも
象徴する。ふにゃふにゃ女優とおかしなお兄さん男優を前面に立て、笑いと毒
にまぶして狂気の爪を研ぎ澄ます。

スクエアは松竹、吉本両新喜劇の伝統に小劇場の風を吹き込んで、新たな笑い
とペーソスを生み出す。ほのぼのシチュエーションコメディに、こてこて関西
弁が炸裂。個性の違う劇団員と客演女優のバランスが絶妙の出汁。

「密会」はウイングフィールド再演博の一環だが、全面改訂されたほぼ新作。
事件を扱わせれば今や当代随一の大竹野正典。深川通り魔殺人犯を描き、時代
と社会すべてから包囲された彼の孤独と絶望がほとばしる。包丁を振りかざす
彼が、幸福を妄想して鳴り響く「ペルシャの市場」に戦慄する。

芸術創造館が取り組むクラシック・ルネサンスが成果を上げる。武田操美の古
典に恐れを知らぬ大胆な演出がいい。とりわけ「番町皿屋敷」の宝塚レビュー
をパロった華やかさ、本来1人ずつの播磨とお菊を男優4人と女優5人が同時に
演じる仕掛けで圧倒する。ある時はシンクロ、ある時はバラバラな動きを見せ
る役者たち。ユニゾンでしゃべったり、割り台詞で掛け合うのもおかしい。チ
グハグな自分の感情、合わない男女数にズレる男と女の心を示す。

ユリイカは会場のアートコンプレックスをこういう使い方も出来るのかと驚か
す。細長い会場を縦に1本花道を通し、ファッションショーの通路のような舞
台設定。それを挟む左右2列の客席、対面席の客を背景に花道を行きかう役者
を見守る。天井から吊られた複式飛行機の模型に明かりが入り、銀河に星が流
れる。父の死を知らされた夜、天に召される父と共に息子は父の人生を振り返
る。死んでなお肉親との旅は続く、通夜は今始まったばかりなのだ。

電子遊戯科学館「惑星組曲」でも主役を張った奥田ワレタ。どの劇団へ客演し
ても溶けこむ引き出しの多さ。「なかよしshow」「ユカイ号」とクロム連続出
演で可愛いい顔に骨っぽさを見せる。

土田英生の留守中のMONO劇団員の活動が興味深い。なかでも水沼健、羊団をこ
なすいっぽう壁ノ花団を結成、作・演出する。女ばかり4人の社員寮での会話
は、先輩後輩含めた微妙な空気をはらむ。しだいにどんどん過去へ遡る構成と
わかる。思い出は巻き戻されるが、事故死した現実は変えられない。歯に絹着
せぬ容赦ない女たちのシュールな会話、とりわけ死体となった冒頭シーンから
巻き戻される西野のたくましさに女性ならではの存在感がある。

劇団本公演「動物ダウト」でも堅実な演技を見せた咲田だが、リージョナルシ
アター2本立てのうち鈴江脚本の「いちごの沈黙。」に出演、中村美保とひと
りの男を張り合って新境地を開く。女同士当てこする壮絶なバトルには血の気
もひく。ジャブジャブではゆっくりした間に一瞬緊張が走るが、鈴江特有の間
断ない早口で怒りを吐き出す表情が新鮮。