中西理さんの01年下半期ベストアクト


作品部門

アプリコット 西田シャトナー+保村大和 超一人芝居「マクベス」
スクエア「俺のやさしさ」(「泊(はく)」)
遊気舎「ジャック・オア・ドッグ」

役者部門

保村大和 (「マクベス」の演技)
久保田浩 (遊気舎「ジャック・オア・ドッグ」の演技)
内田淳子 (青年団プロデュース「雲母坂」の演技)


 ウェブサイト「下北沢通信」主宰の中西です。「キタシバ」のベストアクト対象
は一応、関西で上演された芝居ということになっているみたいなのだが、私の場合
、全体のベスト10との兼ねあいもあるので、関西劇団が関西で上演した芝居に限定
することにした。


 新聞の年末回顧などではピーター・ブルックの「ハムレットの悲劇」などが取り
上げられているが、そういう海外からの来日公演を含めても今年見たシェイクスピ
アの上演の中でも抜群に面白かったのが保村大和による超一人芝居「マクベス」で
あった。実は以前からエンタメ系演劇などという、いい加減な分類をされてきた惑
星ピスタチオであったが、日本現代演劇のなかに系譜づけてみた場合にク・ナウカ
やロマンチカなどと並び「身体性の演劇」に入る数少ない劇団ではないかと思って
きた。

 この超一人芝居「マクベス」は身体表現を主体とする惑星ピスタチオ時代からの
演劇的実験の蓄積をシェイクスピアという古典に落としこんでいった時にどのよう
な舞台成果がえられるかというきわめて刺激的な挑戦であった。この芝居は前半は
「マクベス」のテキストをそのまま使いながら、スイッチプレーの手法を生かして
大和にキャラクターの演じ分けをさせるのだが、それが後半になるとしだいにその
演技がマクベス1人に収斂していき、残りの人物はいずれのその影のような存在に
なっていく。そして最後にだたひとり「マクベス」という等身大を超えた巨大な人
物が保村大和という優れたパフォーマーの身体を媒介としてそこに示現するという
構造を取っている。これは私が考える「身体性の演劇」の純度のきわめて高い具現
であって最近見た舞台の中でもこれに近いものはク・ナウカ「エレクトラ」での美
加理など数えるほどこそ実現されていない希有なものであった。

 関西演劇における今年最大の発見はスクエアであった。人間の馬鹿ばかしさの徹
底的かつ冷徹な観察眼に裏打ちされたキャラクターのおかしさはここならではのも
ので今年見た3本の芝居はいずれも質がきわめて高い笑いを体現していたが、なか
でも国語教師の合宿研修に材を取った「泊(はく)」は国語教育に批評的にメスを
いれたコメディとして清水義範の「国語入試問題必勝法」を彷彿とさせるほどの傑
作であった。

 若手劇団ではまだスクエアの完成度はないものの、京都の劇団「ベトナムからの
笑い声」も劇作の黒川猛のシュールなギャグセンスに魅力を感じた。その上演台本
にもとずき、谷省吾が演出した遊気舎の「ジャック・オア・ドッグ」ではかぶりも
のをかぶって奮戦した久保田浩の抱腹絶倒のおかしさに思わず脱帽。必ずしも後藤
ひろひと作品でなくても良質の台本がありさえすればそれを遊気舎タッチのコメデ
ィに仕立て上げてしまうこの集団の底力を感じさせてくれた。

 最後に厳密にいえば東京の劇団、青年団のプロデュース公演だから私が決めた条
件からははずれてしまうのだけれど、役者ということであれば「雲母坂」の内田淳
子の鬼気せまる演技を落とすわけにはいけないであろう。脚本も関西の松田正隆だ
からまあいいことにしよう。      



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