miyabi.nの上半期ベストアクト



1位 高野の七福神(ジャブジャブサーキット)
2位 ハードタイムス(メイシアタープロデュース近松劇場)
3位 そこここで残るK氏(水の会)

役者部門

1位 桝野恵子(八時半)
2位 大西美穂(芝居屋坂道ストア)
3位 山村涼子(デス電所)

毎回、このベストを選ぶのに、姑息な手を使ってるのね。だいたい、わずか3
位までって少な過ぎるじゃん。10か、せめて5はカウントしたいもん。まあ
集計するのが大変ってのも理解できますし、私が集計する立場ならもっと減ら
すかもしんない。で、作品と役者さんが重ならないよう事実上6作品を選んで
いるわけ。だから

役者部門を、
中杉真弓(ジャブジャブサーキット)、金田典子(太陽族)、吉村麻耶(水の会)と
したり、
作品部門で
「弾道へ光」(八時半)、「あくびと風の威力」(芝居屋坂道ストア)、「仔犬、
大怪我」(デス電所)
と置き換えても良かったわけ。

なぜ、最終的に作品と役者に分けたかというと、作品のアンサンブルという総
合力か、その中で個人が傑出して光っているかの違い。ジャブジャブは、今回
最初に飛び出す中杉のすべり具合で、つかみOKってとこあるんだけど、役者
全員で作り出す空気がすごいと思う。出ハケのタイミングの絶妙さは、細かい
芝居を自負するだけあると思う。これはもう個人個人じゃなくて、それをキー
プする劇団というものに軍杯あげざるを得ないのね。

「ハードタイムス」も金田典子が必殺飛び道具な使われ方、宗教にハマりキツ
ネ憑きするあやしげさは他の追随を許さないが、これは時代を戦後に代え、昭
和の日本をあぶり出す岩崎正裕のネライが正確。油をベアリングの球に置き換
えたけれんも楽しませてもらったので作品全体に。

その岩崎の薫陶を受けた奥野将彰が主宰する水の会。先日、劇団3作品目にな
る「えちうど」も観たけど、最近の私のイチオシ。避けられない突然の死、そ
の不条理を受け入れ、それでも生きて行く、行かざるを得ない残された人間を
描いて迫るものがある。集団の中での摩擦、関係性の描写も的確で、役者も魅
力的です。

劇団本公演としては、初めて作・演出を山岡徳貴子が手がけた「弾道へ光」。
岸田戯曲賞受賞の主宰・鈴江を、あるいは上回る逸材かもと思わせる。つくづ
く、女性の時代なんだと思う。全財産を投げ出した自己啓発セミナーが詐欺と
わかり行く当てない兄が、妹が男と同棲する安アパートにころげ込む。一緒に
行動しなければならないというセミナー仲間と共に。妹の彼氏は仕事も長続き
せず、小遣い持ち出してはパチンコばかりしている男。幻影でしかない彼氏や
セミナーにすがり自分を見失なう兄妹の交錯するアパートに閉塞感が漂う。ぼ
うぜんと洗濯物をたたむ妹役の桝野恵子の無言に息を呑む。

「あくびと風の威力」は再演ごとに削ぎ落とされ、より抽象的にタイトにパワ
フルになってるのね。さらに普遍性を増した定番作品として成長している。大
西美穂は、今回役替りで新たな魅力。低音ハスキーな声も、逆にキュート。

錯綜するエピソード。コラージュのようなコント。シュールでサイケなセン
ス。ワケわからんデス電所ですが、とにかくすごい。役者全員入り乱れてすご
いけど、ひとりと言われれば山村涼子。

このベストのしばりは唯一、近畿ニ府四県での上演だが、私は近畿ニ府四県か
ら発信する芝居と読み換えている。ただ、隣の愛知、岐阜は近畿圏と捉えてい
るのね。だから今回、少年王者館もちゃんとノミネートされています。だった
ら、新感線やMOTHERはどうなる。事務所や稽古場も、既に東京地区だしね。だ
いいち新感線ってもはや商業演劇じゃん、という声も聞こえてくる。確かに、
新感線は吉本新喜劇やドリフタ−ズのヘビメタ版焼き直しというエンタメの王
道を行く。けれど、心根に小劇場を忘れていないと思うのね。だから、私的に
はノミネートはしているんだけど、客の呼べる劇団にはハードルを高くさせて
もらっている。ジャブジャブや八時半の質の高さに反比例する観客動員の少な
さには義憤すら感じるわけで、人としてそっちを推すしかないでしょ。

今回、悩んだのはひょうご舞台芸術の「プルーフ」。ひょうごやドラマシティ
は、商業演劇ながら積極的に関西から全国へ発信して、がんばってると思う。
ホント感動したのよ「プルーフ」。とりわけ寺島しのぶは絶品。「奇跡の人」
「グリークス」と観ているけど、どんどん成長して先行き恐ろしいほど。ただ
翻訳作品なのは、キタしば的には減点要素でしょう、惜しい。

次点としては、OMSプロデュース「その鉄塔に男たちはいるという」、世界
一団「645」。この2つは再演なので、その分割り引かれてます。じゃあ
「あくびー」はどうなんだ、と言われそうですが、キャストと演出を一新した
のを評価してねと言い訳。

役者部門を一目見ればおわかりでしょうが、私には男優は目じゃないのね。で
も不公平でしょうから、気がついた役者を少し。突然のピンチヒッターにも生
真面目な船場の商人魂を見せた桂米吉(ラックシステム「お祝い」)。「野獣郎
見参」で、憎めないまっすぐ馬鹿を演じた堤真一。「怪談敷島譚の3役早替わ
りで魅せた市川染五郎(その中では、艶っぽい悪役の女房お玉が好き)。玉三郎
の小春をも圧倒する紙屋治兵衛役の鴈治郎は、つくづく藤十郎襲名が待ち遠し
い。本物の役者やなあ、というため息しか出ない。

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