12月
エリザベート

先月もおすすめしたっけ、エリザベート。いいものはやっぱりいいので今月も観ますと、キッパリ言い切る私。
トップ2作目(香港公演は別)にして、ぐぐんと成長し姿月あさとのトートは、透明感あふれるボーカルの魅力に加え、立ち姿のりりしさは見ほれるほどに鮮やか。おてんば娘時代のあどけなさから皇后としての気品、夫の裏切りへの落胆、漂泊する魂の孤独まで多彩に演じきる花總まりのエリザベートが胸に迫る。その夫役で稟として涼しげな和央ようか、使命感あふれる厳しき姑役の出雲綾なども好演。何より組の総力あげてのコーラスの厚みが美しい。狂言回しの湖月わたる、息子役の朝海ひかるが公演を重ねて、どれだけ役作りを深めたかに期待。

石川五右衛門

ついに商業演劇にまで足を踏み入れる。コロッケ売りのバニー羽野が大好きで小劇場にどっぷりハマった私にとって、やっぱり羽野晶紀出演となるとハズせない。長門勇、大村昆、島田陽子とワキは達者だし、赤井も地のままやれる役だから、意外と今月の演劇の穴かもしれない。
それよりも、ウワサに聞く新歌舞伎座の場転の遅さ、しゃべりまくるおばさん連が怖い。

MONO

文句なくこれは必見。男だけのシチュエーションで、どれだけの空間を作り出せるか。MONOの場合、ひとひねりしたちょっと異質な世界を、濃密さとゆるゆる感を織り交ぜて展開するが、ほろ苦さが隠し味となって見事な調和を見せる。今作も装置は手がけず役者に専念する一色正春や、ますますひょろりぬーぼーとして正体つかめない金替康博などが楽しみ。もちろん女性ファンの多い水沼健も健在だし、私的にイチオシの役者・土田英生、お坊ちゃまに見えて実は...の尾方宣久がどうからむか興味が尽きない。

ファントマ

最近動員好調なので、内容に関してはくどくど言わない。笑えるハードアクション、ファントマは素直に楽しんで、スカッとした気分で帰るのがイチバン。ただ、会場が八尾と聞いて腰の引けた方に一言。八尾は意外と近い。チラシにも上本町(近鉄劇場)から準急で15分とあるのは本当。でも、駅から歩いて3分のところは、プラットホームから10分とした方が無難。改札を出て信貴山側に折れ、西武百貨店(奈良方向)を目指して陸橋を歩く。階段を降り、百貨店を横に見て通り越し、西武の立体駐車場も過ぎたところに大ホールも兼ね備えたプリズムホールがある。南河内万歳一座が柿落としを飾った小ホールは地下。
ちなみに、JRとの乗り継ぎも便利な鶴橋発の準急で、これに乗れば楽勝という電車時刻をご参考までに。7:30開演で6:57。3:00開演で2:25。7:00開演で6:16。

南船北馬一団

若手では、こことスクエアが個人的にイチオシ。南船北馬一団の強みは、複数のメンバーが本を書けること、役者、スタッフ、演出の役割がフレキシブルで、それぞれに総合的な力を発揮できること。他の劇団とのネットを生かしたキャスティングも、ツボを突く。静かな美しさの底にしたたかな批評精神があり、シニカルな毒が隠されている。劇場全体を異世界に仕立てあげる美術は、毎回見ごたえあり。

ア・ラ・カルト

たとえ餅つきがなくても、これがなくては年が越せないというほどに年末恒例の公演。3人だけとは思えない早変わりは、次々とおなじみキャラを繰り出す。そのおなじみキャラに一年ぶりで出会えたことで、私たちは今年もまた去り行くことを実感する。それにしても、ペギー富岡の熱い歌いっぷりは、いつもスタンディングオベーションしたいほどにせつなく、情熱的だ。ただひとつ注文をつけるなら、幕間にサービスされる某社のワインがとてもマズイこと。協賛だからこそ、質のいいものを出さないと逆効果では。

11月

銀河の約束 広末、粟根、深沢にそれぞれ根強いファン。谷啓、中村雅俊が好きという奇特な人はどこ?

オッペケペ ○ わかりやすい早坂脚本、盛り上げる関西小劇場面々、痛快顔見せ興業

愛謎変奏曲 ◎ スタッフも完璧な布陣、かぐわしき年代もののモルト逸品にも似た仲代・風間のブレンドの妙。

エリザベト ◎ もはやベルバラ以来の宝塚のドル箱。全公演分のチケットが、数日で完売の人気。華麗なハプスブルク家の崩壊、夫婦・母子・愛と死の峻烈な葛藤を2時間半に凝縮した歴史大河ロマン。 いつまでも耳に残る楽曲の素晴らしさ、目を離す隙さえないダンスに長身・美形をそろえた宙組が、新たな命を吹き込む。チケットが手に入るものなら全演劇ファンに必見とおすすめしたい。

ENDLESS- ○ タカラヅカでは珍しい女性演出家・児玉明子のデビュー作。女性ばかりの
集団を同性が演出することを劇団サイドは、最初かなりためらったらしいが、植田景子(
今月は「シンデレラ・ロック」の作・演出を手がける)の熱心さが、その壁を破り、成功
したおかげで劇団が採用した2人目。 3番手格となる伊織直加がバウ単独初主演で、新トップ娘役の披露となる大鳥れいとコンビを組むインドを舞台のロマン。初めてづくしがそろう本作は、HRカオスの大島早紀子を振り付けに起用する斬新さでも話題を呼ぶ。キッチリ、マスコミ受けも考慮するタカラヅカのしたたかな計算と時代感覚は評価せざるをえまい。 真矢みき、千ほさちとトップ2人が退団した花組の将来を占う公演ともなる。

迷宮伝説 関西発ミュージカルのわかりやすさが、元音楽座・STEPSの横山由和脚本
の楽しさにびたり。

スリチャン ○ 解散公演。村田雄浩もメジャーになったもんな。セクシーな女優陣も好きだったけど、村尾幸三のシャープな演出が何より。

上海太郎 私には、大当たりかハズレのどっちかしかない上海太郎。今回は、観客の誰に流し目?

イッセ尾形 芸は国境を超える、らしい。人間の普遍性などと難しく言わなくても、おかしみは共通。

夕鶴 渡辺徹の与ひょうは、どう見ても貧しい農民って体型じゃなく、裕福な庄屋って貫禄十分なのが不満。が、最近年増呼ばわりされてる玉三郎が、芸の力で可愛く、けなげなつうを見せてくれるはず。

ジャブサー ◎ 文学の香気とジャーナリスティックな時代感覚を同時に体験できるのが、はせ作品の魅力だが、ジャブ2サーキットは、それを具現する集団としての、誠実な良さがあふれている。彼らの基盤が、騒がしい都会ではなく、岐阜に根ざすことからくる生活のリアリティが、嘘のない演技としてにじむ。看板の一色忍に熱いファンが多いが、咲田とばこのぼけもお忘れなく。

PHM ○ 元維新派を中心に、エンゲキを超えるパフォーマンスをめざす。コンプレッサーで動くキカイな椅子など現代アートとしても、楽しめるはず。

桃園会 ◎ 想作品で、いちばんエッチなのを選ぶとは、さすが深津、楽しみ楽しみ、いひひ(一部おやじモード)。あの台詞は、あの方が、おっしゃるんですな(感謝>稽古場レポート)。寿歌以降の終末感を、屋上を吹く乾いた空気で描いた本作。新たなエロス的終末の発見につながるかもしれない。

太陽族 ○ スタッフに右近、久野が加わっているのにはビックリ。本気で、想作品と遊ぶつもりらしい岩崎がたのもしい。ホンも役者もいいからと吹っ切った姿勢に好感が持てる。

10月
維新派/王國

今や関西だけでなく、全国の演劇ファンにとって季語となりつつある一大野外イベント。
演劇のワクでくくることが、もはや間違い。
この時期、埋め立て地に忽然と現れては、忽然と消えて行く美術、音楽、パフォーマンスの混ぜん一体な祭り。それは、砂漠と化した現代の蜃気楼であり、松本雄吉が夢見るオアシスの再来なのだ。

青年団P/新版小町風伝

「マッチ売り」は、ちょっといじり過ぎた気がする。別役の不条理とキチッと計算立てる平田は、意外とそりが合わない。が、太田の沈黙劇と平田の静かな演劇の対決?は、興味しんしん。ワークショップを通しての役者の扱いに関しても、期待の持てるところ。

麻実れいハムレット

チケットの売れ行きもいいと聞く再演。初演オフィーリアの羽野晶紀の、はかなげな狂気は絶品だったけど、高橋かおりも良さそ。が、歌・演技とも油の乗り切った麻実れいに注目すべきでしょう、やはり。

RENT

かつて、四季の会報で「プロードウェイで評判のRENTは日本人向きじゃないから、四季は上演依頼を断った」うんぬんの記事が出たことがあった。今思えばその時には、日本での上演は他のところで着着と進んでいたのだなと。四季は好きだけど、そのコーナーはいやみな文体が書き手の品性を疑わすに十分だった。ちなみに「話のくず籠」というタイトルだったけど、ホントにゴミ記事ばかり。今は、ライターが代わって良くなったけど。そんなイキサツに負けず、日本でもミュージカルが定着したことを、RENTが成功することで証明して欲しい。エイズ、バイセクシャル問題を抜きにして、もはや現代は語れないのだから。


銀幕遊学◎レプリカント/図形楽譜の都市

レプリカントをまだ観たことのない人は、絶対に不幸。理屈じゃなく、身体表現が感覚でわかるから。生演奏される反復音楽の浮遊するかの心地良さも、ぜひ体感すべし。ただ、会場が狭いので、前売が確実(ぴあ取扱)。場所も、フツーのマンションの地下で、ちょっとわかりづらいから問い合わせのこと。
http://www.bsf.ne.jp/ou

9月
立身出世劇場 東京のおじさん

年頭に、ひそかな誓いを立てて、今年プッシュする劇団を桃園会とMONOにした。関西基盤で東京では無名もしくは動員の少ないという基準によって選んだ、あくまで勝手連。

が、桃園会は深津篤史が岸田賞受賞、MONOは金替入団で利賀でも大ブレイクと、うれしい悲鳴。で、早々と、目標をスクエアあたりに路線変更したわけだが、関西中堅のがんばりどころとして、今応援したいのが立身とファントマの2劇団。小劇場だけでなく、中座にも客演するほどの売れっ子の座長・関秀人をはじめ、芸達者をかかえることでは定評のある劇団だが、公演ごとにテイストの違う作風がなじめず、正直
いって動員はまだまだ。個人的には「ペガモ星人の逆襲」「地上最低のショウ」の後藤ひろひと脚本は、劇団カラーにそぐわないと思う。藤本有紀や劇団員による脚本も、意欲は認めるが習作の域を出ない。
結局、座長の性格である大阪らしい人情の厚さが、ここの最大の良さなのだと思う。何しろ、ここのファンクラブは、座員ともどものソフトボール、餅つき、魚釣りと手作りのイベントが魅力。これだけ、アットホームな劇団って、そうないのでは。だいいち、稽古場というかホームベースが、もろディープな大阪の下町、通天閣にもほど近い一心寺シアターなんやねんから(と、いきなり大阪弁)、こてこての浪花っ子純情なのも納得できまっさ。

で、作品。最近作でめちゃ好きだったのが「とってもフォークな夜」。関秀人らしい、ハートウォーミングなストーリーに泣けた。今回も、その座長の作・演出(フォークは杉本演出だったけど)というんで、きっと目元うるうる、人間って信じられる、って気分にな
れるはず。あと、裏ワザとしては、ワキのベタネタを楽しむ、という手があり。天才パープリン・みなみさゆり、太目でお茶目・岸本奈津江、ハズした時の目にテレ・上別府勲、カスれダミ声も人間離れ・今仲ひろしらの多彩な小ネタに注目。

ファントマ 戦闘鬼

で、当然、次のおすすめはファントマ、となるわけだが、劇団DMで浅野彰一入団を知り、こりゃ期待大だなと(恐怖百物語のチラシで気づくべきだった)。個性、ギャグ、色気、アクションを誇る女優陣に不足はない劇団だが、山本忠と首藤健祐の2枚看板が抜けた男優の手薄は、覆うべくもなかった。一心寺恐怖百物語で、浅野のギャグもシリアスもこなせる色気を再認識。芯になる役者がそろったところで、あとはホン。最近は、ストレートな展開、屈折とひねり少な目だが、何でもいい、客に考える隙を与えず、ぐいぐい押しまって一気に行ってくれェ>体重体格は横綱のえん魔氏。

宝塚月組 黒い瞳、ル・ボレロ・ルージュ

タカラヅカってだけで、食わず嫌いの人の多いこと。かく言う私も、ついこの間まで、そーだったからムリないとも思うけど、ここまで巨大な一ジャンルを確立した舞台そして宝塚というシステムは、やはりスゴイ。大劇場の中では、あの歌劇(過激?)メイクも、絢爛衣装も、オーバーアクションも、この世界になくてはならないものとしか思えず、ここは現実と隔離されたレビューのテーマパークだと改めて思う。太ったやせた、背の高い低いをはじめリズム感の微妙な違いによるアンサンブルの乱れは、どこのミュージカルでも共通のはずだが、音楽学校での同システムでの訓練を重ねた宝塚では、完璧なダンスシーンに酔える。まるで彼女たちが、ひとつの意志を持つクローンのよう。が、むろん彼女たちの個性も、それぞれにキラめいていて、それを発見するのがまた楽しい。今公演は、風花舞の退団公演だが、あの折れそうな肢体で精一杯ダンスするひたむきな表情に、何度涙することだろう。

8月
グローブ座カンパニー ヘンリー四世

シェイクスピアを読むと、時代や民族で人間の本質が、それほど変わらないことを改めて思い知らされる。たぶん、子供と大人も考えること、感じることにたいして違いはないのだろう。だからこそ、子供のためのシェイクスピアと銘打った本シリーズが、時と国と世代を越えて共感させるものを持つ。
表面的に散りばめられたこっけいさの奥に、突き詰めた悲しみやあきらめがうかがえる。深く人間を見つるシェイクスピアだからこその、さまざまな人間像のからみはあきることがない。

宝塚月組 ブエノスアイレスの風

1000days劇場のオープニングを飾った月組「ウェストサイド」でベルナルドを演じた紫吹淳の主演。アニタの兄としての思いやり、シャーク団団長としての貫禄、プエルトリコ人としての誇り、影り、悔しさなど雑な内面をキレイな立ち姿で見せた。難は、どうしても人の良さ、上品さが透け、貧しく卑屈には見えないこと。ま、その辺は、タカラヅカだしミュージカルだから、オッケーなんだけど。ふだんの、大劇場もしくはバウホールというホームグラウンドとは、また違う華やかさとドラマが見られるだろう。比較的客席と近いので、劇場がひとつになる一体感が味わえるはず。

一心寺恐怖百物語

なんか好きで、毎年通っちゃうこの企画。要は、劇場と幽霊というのはエンが深いってことでしょう。
人間の業が、演じたり化けたり、させるんでしょうね。最近、男も女も化粧するって風潮は、それだけ世の中が演劇的になったってことなのね。逆に幽霊には住みづらいようだから、この機会にうんとおとむらいしてあげましょう。

ハムレット

民藝のアンネ役で、宝塚北高出身、大抜擢の花村さやかもガンバっていたが、個人的にはミュージカル版の奥菜恵・アンネが大好き。本当に、アンネの魂が乗り移ったかに見えた演技に瞠目させられた。
「広島に原爆」の稲垣吾郎にしろ、奥菜恵にしろアイドル視できないうまさに舌を巻く。いや、アイドルこそ、時代の息吹を感じ取るアンテナなのだから、私たちがその輝きにひきつけられるのは当然だ思うこの頃。タイトルロールの染五郎は、「葉武列士倭錦絵」での華麗な二役早変わりの記憶もさめやらない。オフィーリアの可憐さは申し分ないが、悩めるハムレットの深みがあと一歩ってところ。型で演じる歌舞伎バージョンゆえの限界なのか、若さのせいなのか。けれど、その時、共演された田之助さんの言によれば、毎日の舞台で染五郎が吸収し、成長する様に感心したそうな。それだけフレッシュで、可能性を秘めているということだろう。いつか会心の染五郎ハムレットが誕生することを疑わない。

身毒丸

ベテラン市村正親ならいざ知らず、あの白石加代子を向こうに回して渡り合うとはただ者ではない藤原竜也。本当に親子ほど年齢の違う二人の真剣勝負を見るだけでも、入場料の元は取れるのでは。
寺山修司のケレンと、蜷川のハッタリの真っ向勝負が、もうひとつの見所でしょうか。

7月
王様と私

高嶋兄はそれほどでもないが、「エリザベート」でトートを演じきった一路真輝のヴォーカルはちょっとスゴイのではと期待している。一路トートの舞台を見逃したのは不覚だが、ライブCDを聴くだけで舞台がよみがえる気がする。それほど訴える力を持つ人の声というものに驚嘆する。改めて指摘するまでもなく、舞台人養成機関としての宝塚の意味はもっと検討されていい。麻実れい、毬谷友子、森奈みはる、久世星佳、安寿ミラ...。だからこそ、それをパロった「サクラ大戦」の帝国華撃団「花組」に「乙女組」なる養成機関があるのもうなづけるというもの。ナニ言ってるかわかんなくなったけど、「王様と私」このタイトルがいいんじゃない。あの後藤ひろひとが事務所名にしたほどだもの。KING&I。遊気舎ファンも、これは観なきゃ。

熊谷真実ひとり芝居 熊谷突撃商店

熊谷真実を舞台で観たのは、「サザエさん」(東ちずるとのWキャスト)が最初だけど、忘れられないのが、くるくる良く回る目が天衣無縫のマンガキャラ生き写しだったってこと。あの青空のような明るさこそ、今の円安不況の日本に欲しいもの。ギコちない橋本首相の嘘っぽい笑顔じゃなく、商店街をたくましく闊歩する彼女に一票。

民藝 アンネの日記

実は、民藝って観たことないけど、奥菜恵のアンネがあまりにも良かったから観に行くと不純な動機。先日、新聞でアンネの日記が残された奇跡の経過についての記事を読んだ時、あふれてくる涙に自分でも驚いた。それほどまでにフラッシュバックする舞台のすごさ、演劇の持つ力を再確認したし、それが今回どれだけ表現されるか楽しみ。色々に解釈可能な「アンネの日記」だけど、し烈な境遇だからこそ成長を遂げた魂の奇跡、として二十世紀を象徴する光を放っていると確信する。

加藤健一 トーチソングトリロジー

ゲイを描くことで、愛の純粋さそのこっけいさを抽出する手法は、あふれている。レグと過ごした甘い夜、蜘蛛女のキス、レント...。それだけ真剣に自身と向き合い、他人と関係を持とうと必死になる彼らの姿がうらやましくなる。カムアウトに抵抗のある日本人と情報公開しない日本社会は、たぶん等質なもの。いつまでも境界線を肥大させ、モノゴトをあいまいにさせたままのこの国で観る演劇は、それ自体がコメディなのかもしれない。

6月
維新派+内橋和久オーケストラ

野外スペクタル維新派の唯一の欠点が、ワイヤレスマイクの不調による音飛びやハウリング。風の影響でハード的に無理ないとも思うが、圧倒的な臨場感の中でそれだけが心残りでもあった。
ストーリーや美術パフォーマンスの楽しさは削られても、音的にはより完璧なライブハウスでの維新派にアナザーサイド的魅力が爆発することだろう。
実際「維新派大全」にも記載されていない93年の「gazet voise」サンホール公演を観
たことがあるが、狭い空間に充満する維新派パワーに息を呑む思いだった。さらにグルーブ感を増した維新派の行く末を見極める意味でも必見。

PM/飛ぶ教室 活弁士・塙韋駄天の吉日

主宰・蟷螂襲のしぶい独台詞の魅力。顔も苦虫をかみつぶしたかにしぶいけど、なかなかどうしてセンチでロマンあふれる戯曲を書く。人間ってまだまだ捨てたものじゃない、と思わす下町的暖かさが好き。KISS・FMのDJ・福井玲子のうまさは言わずもだが、若手の斉藤・足利らの成長も楽しみ。加えてゲストの使い方が巧み。今回の雀三郎と淵野尚も、きっとどこの客演よりも光るだろう。

大分市つかこうへい劇団 売春捜査官

熱海・最終バージョン・サイコパスは、ちょっと話が飛躍し過ぎてません、と思ったけど、コレは傑作。とうとう、韓国で正式に日本語公演として認められたとか。まさに、日韓の明日に架ける橋となった「売春」。
そう、公共ホール公演だと元々のタイトル「売春捜査官」が、はばかれるのか小さい字で副題にされ、「女・木村伝兵衛」なるタイトルが前面に出されているのが、奥床しくもおかしい。
その努力にもかかわらず、チケット販売もイマイチの様子。ホールまで難波から30分、南海高野線・狭山遊園地前すぐ。この沿線もっと遠くの和歌山県から毎週芝居見物に大阪市内へ出撃する人もいると聞き及ぶ。思ったより、大阪狭山市は近いぞ。由見あかりの網タイツを見逃す手はない。

HOBO'S ねこもどり

MOTHERの座付き作家としてもおなじみの東野博昭のユニット第2弾。ボケ+ツッコミ+シュールのバランス感覚が、この人ならではの絶妙さ。「SHYBAN」のホスト役でおなじみ、カマっぽい演技に鬼気(喜喜?)迫るものがある。
ドリブラ時代より、ずっと元気なかっぱも楽しみ。今回は、今邑聖とますもとたくやがどうからむのかにも注目。

桃園会 黒子な私

今月イチバンの注目作。主宰が岸田賞を受賞したので、おそらく日本中の演劇関係者が固唾を呑んで見守っているのでは。でも、やっぱり南海高野線、いや難解で降参? わかりにくさに定評?のある深津戯曲だけど、その難解さは初めてカミュやサルトルに接した新鮮な感動を思い起こすほど。ドグラマグラというか、解けないパズルの果てしない魅力というか。それは、しょせん人間の存在そのものが謎を秘めているからだと思えてしまう。で、あっても、舞台上から発散される役者たちのニオイに心打ち震える時間は、けっして謎でも幻でもなくリアルそのもの。その落差の魅惑はいわく言い難い。

5月
恋山彦

Fステージベストテン堂々29位ランク入りを見て、これは観なきゃと思ったわけ。商業演劇なるものは、森光子の「深川しぐれ」以来だが、マキノノゾミ脚本・栗山民也演出の同作品は、飛天の大舞台3階席からでも引きまれる出来で、金のかかった芝居のすごさを認識した。
再演の希望高い恋山彦もきっとすごいんでしょう。この田村正和を観て、新感線の古田新太が役作りの参考にしたエピソードも有名だし。ただ、心配なのは、観客席のおばさま族。上演中のおしゃべり、食べたり、飲んだり、歯をせせったり、イビキかいて眠るのはやめてくださいな。

サクラ大戦〜花咲く乙女

実はゲームもしたことないけど、帝国華劇団・花組って聞いただけで、行かねばっと血が騒ぐ。宝塚もかつては、少女歌劇団として男性客が多数占めていたとか。少年時代の手塚治虫も、そんなファンの一人だったのだろう。南青山少女歌劇団を観たことのない人は偏見あるだろうけど、名倉加代子監修の振付をこなす彼女たちは、間違いなくこの瞬間ぴかぴか輝いている旬そのもの。ランニングシアターダッシュのごとく、熱くクサい芝居も、その若さと勢いに免じて許しちゃう。

199Q太陽族 空の絵の具、ガラス壜の中の船

昨年から今年にかけて、OMS戯曲賞、咲くやこの花賞と立て続けに受賞が相次ぐ期待の岩崎が、ここで足場を固めるべく再演2本立に挑む。おそらく、劇団の原点を見つめるとともに、現在の劇団の技量を示すパワーアップしたものを見せてくれるはず。前作「透明ノ庭」が、卒業公演と重なり出演のなかった金田典子の登場も楽しみ。彼女のみずみずしいボケにかかると、世界が透明な寒天ゼリーのようにぷるんと震え、一瞬位相を変えるのがよくわかる。

クロムモリブデン ソドムの中

前作「ラボちゃん」では、こことしてはわかりやす過ぎる展開を見せたクロムだが、今回はタイトルからしてあやしい。観客も、皮の下着、ムチ、手錠などで武装して行く覚悟が必要かも。映像・音響とのさまざまなコラージュを続けるクロムは、いつか演劇を解体し、かつてない表現世界を生み出すだろう。それまで私もローソク振り回し、応援してるっからね。

銀幕遊学◎レプリカント 美妙

ダンスを、文字で表現するほど苦手なことはない。言葉にできないからこその、肉体表現の動きだろうから。そして、ダンスほど、直感的に好き嫌いがハッキリ分かれるものも他にしらない。冬樹とか伊藤キムは生理的にダメで、観ることが苦痛にすらなってくるのに、上海太郎とかカオスとかレプリカントは、全身どっぷり浸っていたいほどの陶酔に襲われる。つまりダンスは理屈ではなく、まったく受け付けないか、まるごと感性がシンクロするか、その両極しかない。今回、出演者クレジットを見ると、メンバーチェンジされたのか主力の名前がないけれど、それでもあの音楽そして繰り返されズレて行くあの動きを観たいと思うだけで、せつない気持ちが込み上げてくる。とにかく一度観て!と、誰かまわず叫びたくなるほど、大好き。

ファントマ ビリィ・ザ・キッド

ファントマと立身出世劇場の共通点は、作品の出来不出来の波が大きいこと。両方とも大阪発の劇団として、次こそ東京でもブレイクして欲しい、と願っているのに、もどかしくなることがしばしば。今回1年ぶりの東京公演だが、その間の大幅なメンバーチェンジに驚く。金鬼もゴルも島津健太郎も写楽も、どうしたんだろう。彼らと萩原宏信らで殺陣アクション演劇を極めたファントマだが、今度はどこへ行こうとしているのだろう。シュールギャグとハードボイルドの、息もつかせぬめまぐるしい展開、ってのが売りだが、最近ギャグが間のびしているのも気になる。って、これじゃおすすめじゃなく、苦情申し立て&心配ごとのご相談になってる!?いや、前作「えん魔版ハムレット」で役者としてのえん魔のおかしさを再認識したし、看板女優・美津乃あわの低い声も健在ですぞ。

4月
加藤健一 プレリュード・トゥ・ア・キス

かつて、ある劇団の上演するレイ・クーニーの喜劇を観たが、(原作「イット・ランズ・
イン・ザ・ファミリー」加藤健一では「パパ、I LOVE YOU」として上演)、わず
かな間の狂いで芝居が成立せず、テンポがコメディにおいてどれほど重要か、そして加藤健一が難なくそれをクリアしているか、改めて思い知らされたものだ。
コメディにおいては、テンポとノリこそが命。台詞がうまいのは当たり前、安心して観られる安定感の上に、役者同士の微妙な息使いまで感じられなくては、客は楽しめないのだ。
やってて楽しい人と組む、という加藤の姿勢がキャスティングにモロ出ていて、その気分こそが何よりも加藤の芝居を支えているのだと思う。京普佑や西牟田恵だけでなく、全員に目が離せない。

新天地 ブッキングマン

先日、ウィングフィールドでバイオリンケースを手に観劇している西村恵一を発見したのだけど、このあとゲストで出演している新天地の稽古なんだろうなとふと思った(それとも外出時は、いつもケースをさげているのでしょうか)。
積極的に生音楽を取り入れているこの劇団、なんかやらかしてくれそうで期待大。それでなくても、看板女優の大西明子の笑顔いっぱいの写真(チラシの裏)を見たら、本当に春そのものって感じで、実に楽しみです。

売込隊ビーム ヴィークの人

月に1本は、今までに観たことのない劇団を観る、を合言葉にしているのだけど(誰とや!?)、チラシで選んだ今月気になる劇団がコレ。
インパクトのある黄色の下地に赤い縁取り。マンガチックなロボットor人間から流される血。あやしい劇団名に、あやしいタイトル。
でも、じゃむち終刊号のベストアクト特集で総合部門に投票した人のコメントを読むと、実はあなどれない芝居かも。いーなあ、こういうドキドキ、この初めての出会いってヤツにひかれて、深みにハマっちゃうんですよね。

唐組 汚れちまった悲しみに...

桜の散る頃の唐組も、もはや大阪の季語と化しています。今年は、恒例の生国魂神社境内でないのが残念。テントの背景になるファッションホテルのきらびやかなネオンが、人間の欲望の光と影を象徴していて何とも唐の芝居と似合っていたのに。
ふつう戯曲を読むと、舞台とは違ったそれなりのおもしろさなり深さがあるものだけど、唐のホンだけは3行で放棄しました、頭痛くなって。その時に、唐の芝居を成り立たせているのは、役者それぞれの血の匂い、見世物小屋で繰り広げられる哀愁あるドタバタだと、理解しました。
キレイになり過ぎたテント公演が多い中、今だにアセチレンランプを思わすわずかな照明、客席にまで響き渡るキッカケのオープンリールテープのスイッチ音、板の間の舞台から湧き上がるもうもうたる土埃...。何もかもが懐かしく、そしていつまでも新しい唐の芝居は貴重。
先日のリリパの「ベイビーさん」でも台詞に使われた「ゆあーん、ゆよーん」の中原中也を、どう料理するかお手並みを観たいものです。

2TB 略奪王NAGAMASA

去年12月に初めて観た劇団だけど、いいです。分類すればクサいアツい系だけど、これから伸びそうだから、ダッシュがもうダメって方にもおすすめしたい。
作演出のアイデアに光るものあり。難は、役者のうまさにバラつきがあること。男優にはいい人あり、とりわけ女優陣の奮起を望む。

高泉淳子 カメレオン ジャジカル ライブ ショウ

これは、芝居の範ちゅうからハズれると思うのだけど、ぴあでもちゃあんと演劇欄に掲載されていますし、シアターガイドにも載っている。
遊〇機械/全自動シアターの芝居って、明らかに人生の陰の部分を強調したモチーフが多
いのだけど、人生を楽しむ陽の部分が「ア・ラ・カルト」とかこの音楽ショーの役割だと思う。
この二つを合わせ観ることによって、遊〇機械がわかるし、人生そのものも見えてくる。関西での公演を心待ちにしている「気まぐれJAZZ倶楽部」に代わるものとして、これは見逃せない一夜となりそう。

3月
キンダー・トランスポート〜エヴァ、帰りのない旅

「GHETTO」で紀伊国屋演劇賞をはじめ数々の賞を総なめにしたひょうご舞台芸術の新作。芸術監督・山崎正和と演出・栗山民也の最強コンビで送るキンダートランスポートとは、ナチス弾圧を避けて子供たちだけを外国に避難させたユダヤ人たちの運動をテーマにした本作を取り上げる。たんに戦争の悲惨さを描くのではなく、その悲劇で傷つく親子関係を女性の視点から見る。生き延びたものの罪悪感が継承され、新たな親子の葛藤が生まれることで、本当の自分探しの旅を始める物語。女性のみならず、観客の涙を誘うこと間違いない作品。
それにしても、尼崎ピッコロシアターや伊丹AI・HALLなど、たんなるハコ作りに終わらぬ公立ホールの活動ぶり、兵庫県や伊丹市の舞台芸術への理解を高く評価する。

それいゆ

完璧な自分の世界を作り上げる少年王者館。そのコンセプトはチラシにも貫かれている。甘酸っぱくてほろ苦い、懐かしいのに新しい、体験したことがないのに覚えているデジャヴューの感覚。独特の台詞回し、センチンタルとノスタルジーあふれる世界が、久しぶりに扇町に帰ってくる。天野天街のファンタジックにとっぷりと包まれる異体験をぜひ。

Jerichoエリコ

2月に行われた「新・曽根崎心中」の幹ジュンコは、松田正隆作品以外で初めて納得させる演技を見せた。狂気と愛をあやういバランスで保つ遊女を体当たりで表現して、その凄みは、こちらの背筋が凍るほど。
もちろん、時空劇場以来、松田作品には欠かせない彼女。松田の新作への期待、そして水沼がどんな演出を仕掛けるか、関西の演劇ファンすべてが固唾を飲んで見守ることだろう。

陽だまりの樹

昨年の新劇フェスティバルで初めていくつかの新劇なるものを観たのだけど、キチンとした方法論を学んだ役者のしっかりした演技に感心した。台詞が通るという当たり前のことすら出来ていない小劇場を見続けてきたもので。伝えようとするテーマがくっきりしており、それに見合う明解な演出と演技が、けっこう心地良かった。
けれども、舞台美術の古さ、間延びしたテンポは何とかして、と思ったのも事実。これは、内藤裕敬の怒涛の演出で、基礎の出来た大勢の役者たちのアンサンブルが見られるすごい企画。新劇嫌いの人にこそ、観て欲しいもの。ただ、中座なのに指定席じゃなく、当日2時間前から座席券と引き換えとは、何たるシステムかと思う。

努力しないで出世する方法

ピスタチオ、ダッシュの舞台監督でおなじみの鈴木田竜二がプロデュースする寿団。実は、ピスタチオ、ダッシュ系の芝居の中で、去年の私のベストは「いつもの夏」。リングに飛び散る汗、ボクシングをテーマに、壊れていく男たちのロマンを描いて何ともカッコ良かった。
今回もすごい顔ぶれのキャストは必見。公演が重なるCTT事務局「のたり、のたり」とどっちを取るか、大いに悩むところだけど、桃園会ファンの私としても、深津篤史(のたりの作)よりはやっぱり江口恵美(努力に出演)に軍配を上げざるを得ないでしょう。

2月
銀幕遊学◎レプリカント「Another Bricks in the Wall」

とにかく、今月のイチオシはこれ。たった一日、神戸はあの被災地のど真ん中で行われるレプリカントのパフォーマンス。ダムタイプが知的に研ぎ澄まされ、コンピュータを駆使した打ち込み系の音をバックに緊張をしいるソリッドな動きを見せるとすれば、レプリカントは、弦楽ユニットを標榜する艶のある音楽を背景に、メカニカルな中にもミニマルで暖かなダンスを繰り広げる。音楽、衣装のコラージュで見せる独特の世界は、初めて観る人にも言い知れぬ感動を呼ぶ。あの身体の律動が、表現しようのない心地よさを生む。自らアスファルトオペラと名づけ、現代を生きる私たちに魂の救いすら与えるパフォーミングアーツ。そののびやかなしぐさは、野外のステージでより一層持ち味を発揮する。まさに一合一会の出会いとなる貴重なライブ。詳しい問い合わせは、オフィス・レプリカント 06−358−9352

北区つかこうへい劇団「熱海殺人事件・サイコパス」

どこまで行くんだっ、という「熱海」だけど、いまだにバージョンアップしつづけるというのはすごい。これが、最終バージョンって言ってますけど、これもつかのいつものホラ。きっとまだまだだって。とにかく、これだけ「過剰」な思い込みの登場人物たちが、口角泡飛ばして激突する芝居も少ないわけで、静かな演劇なんちゅうのをぶっ飛ばして欲しいと思いますです。
ま、私は、個人的に鈴木聖子しか見ていないと思いますけど。

「ロマンチック・コメディ