9月

浪切ホールはだんじりで有名な岸和田のショッピングモール=岸
和田ベイサイドカンカンモールに隣接、最新の劇場機構を持ち客
席からも見やすい劇場。「十二夜」はシェイクスピアの原作を東
宝が独自にミュージカル化、元宝塚トップ男役ならでの大地真央
のひとり二役=男女入れ替えが見もの。

チケ入手難の「噂の男」。人気の理由は男優5人?ケラの演出?
久々のW橋本出演など関西テイスト濃厚な布陣。とりわけ橋本さ
としへ→来期レミゼのジャン・バルジャン就任おめでと。

G2演出の前作「開放弦」の突き放した哀しみがじわっとしみる
ラストで、ようやく倉持裕が好きに。満を持してペンギンを率い
て関西初進出!!こちらも京都に初お目見え、チェルフィッシュと
もども楽しみ。

あうん堂はちょっと考えさせられる日常を洒脱に描写。強烈なエ
ピソードがあるわけでもないが、なぜかクセになる。都会に疲れ
た私たちは、これ一本!のスタミナドリンクより干天の慈雨のよ
うなやさしさを欲している。

ババロワはイギリス系ブラックギャグの荒唐無稽さが魅力。劇団
のキモは、向田倫子の美形に秘めた破壊力にある。

いわゆる劇評家の間で評価の高いマレビトだが私は苦手。難解極
まる脚本を間違いもせず台詞で吐き、肉体化する役者に賞賛は惜
しまないけれど。奇しくも「紙屋悦子の青春」映画版の封切と重
なるが、かつて時空劇場を率いた松田正隆のあの頃が懐かしい。

楽市楽座は必見、野外の楽しさがテントに横溢する。サーカス小
屋の無邪気さとピエロの慧眼&哲学が見事にミックス。ロマンと
郷愁が月夜の下で共振。

兎町十三番地は旗揚げ公演を見逃す。劇団員の他劇団への客演も
多く、チラシのセンスもいいので期待大。初めての劇団を観る時
のわくわく。(雅)


8月
天才・天野天街の言葉遊びは日本語と英語の語呂合わせも自在。「I KILL」(殺す)を
「イキル」(生きる)と読ませるタイトルで既に「やられた」。

9月には初の大阪公演を控えるペンギンプルパイルズ主宰の倉持裕がG2と組んだ2作
目「開放弦」もきっとシュールがいっぱい。大倉孝二や犬山イヌコのほのぼのキャラで
ほどよく中和されてたらいいな。

テクイジはとにかく好き!! ただ座付き作・演出家の中井由梨子が劇団員じゃないって
システムがいまいち呑み込めないけど。

「アクロバティック白鳥の湖」。バレエをシルク・ドゥ・ソレイユ化して京劇をミック
スするたあ驚いた。見世物芸としてのショーのツボを押さえてる。

「白鳥」と劇場上下で同時期公演の「花嫁付添い人の秘密」。戸井勝海ひとりで女優5
人相手がうらやましい。けど、実際は大変だろうね。

関西エンタメ系で今最も旬の作・演出家と断言できる末満健一率いるピースピットが
HEP HALLでロングラン。豪華キャストのアンサンブルに酔う。

TV「白夜行」で綾瀬はるかの子供時代を演じた福田麻由子にびっくり。天才子役と聞
いてはいたけど、末恐ろしいうまさ。たとえば大竹しのぶや中嶋朋子の子役時代もこん
なだったかも。福田の初舞台を観たってのは将来自慢できる可能性大。彼女を主演に迎
えるキャラメルの懐の深さ、夏休みを利用するプロデュース力もすごい。

大阪に新しい劇場がまたもやオープン。京橋から京阪で1駅の野江にあるS-pace。オー
ナー関川祐一(ことのは主宰)の人脈によるこけら落としも渋め豪華なラインナップ。ま
ずはジャブジャブサーキット主宰はせが中心のユニットから。

Piperは懐かしいニコラスの再演。初演時は近鉄アート館がまだあったんだよな(注:アー
ト館というスペースは残されている)。三上と川下が初演に続いての出演、G2から代
わった竹下宏太郎の演出やいかに。(雅)

7月

今月も注目作品が目白押し。梅田芸術劇場という商業演劇のメッカに進出
するかつてのアングラの雄・維新派のパフォーマンスには全国から観客が
押し寄せるはず。そこに梅田コマ改め「芸術劇場」を名乗る側の期待がわ
かるというもの。同日にドラマシティで「OUR HOUSE」を競演。掛け持ちの
観客は劇場の上がり下りで忙しい。

ウワサのシベ少が大阪上陸。それもミナミのど真ん中、精華小劇場に。
どっぷりディープな大阪でのお披露目はいかに。京都の電遊も大阪は住之
江に登場。仮オープンだったblack chamberもこのロングランで本格的に稼
動。造船所跡という水際立地に大いなる可能性を秘める。

転球劇場が最終公演。自らをアホ、バカ、カスといってのける芸人魂に感
激。客演なし3人だけの出演も潔い(スクエアもメンバー4人だけの方がお
もしろい)。魚灯、太陽族の作品はいつも良心的。真面目だけど、ユーモア
センスにもあふれる。私はときおり笑いの発作にかられるけど、周りは眉
を寄せたまま。そんな真剣に観るのもどうかしらん。笑っちゃダメですか
>劇団関係者様(「ウィー・トーマス」も喜劇ですごく可笑しいけど、血ま
みれホラーなビジュアルに客席はひき気味。笑いづらいヨ)。

藤十郎襲名の歌舞伎も関西人ならチェック。関西歌舞伎復興に果たした藤
十郎の業績は私が語るまでもないが、未だに挑戦の気概を忘れない生きざ
まに打たれる。クイーンを死と生の群舞に置き換えた華麗なベジャールの
バレエに息を呑む。ファントマ=オペラ座の怪人(劇団ファントマと間違え
ないように)コピット版はルルーの原作よりさらにわかりやすい。ロイド・
ウェパーにはかなわぬがイェストンのメロディも耳になじむ。歌のうまさ
では定評ある花組だけに期待。(雅)


6月
すみません。6月分は途中まで書いて書き終わらず、とうとう6月半
ばになってしまい、結局ギブアップ。で、今回初めての試み「おすす
めするはずだった公演が、結果どうだったか」編に書き直し、でお許
しを。

で、6月観劇はどれもおもしろくハズレなし!! 甲乙つけがたい中で
あえてベストワンを選べば、末満×梅本の一人芝居。某有名アニメを
一人で演じるという途方もない企画。著作権の関係で無料シークレッ
トにせざるを得なかった由。挨拶文で「この公演のことは書かない
で」と口止めするほど。なので、多くは語れないが素晴らしい出来。
アニメに登場する全キャラを2時間かけて演じきった梅本に拍手!!

次回から劇団名をsundayに改め再出発する世界一団はワークショップ
を思わす実験的な試み。ヘップホールで舞台を中央に設け、ひな壇の
客席が左右からはさむ形式も珍しい。

ジャブジャブも客を壁際に座らせ、ウイングフィールド全面を舞台に
して、レトロ感あふれる昭和に観客を拉致。まだ犯罪にロマンと志
あった時代に。

才能のぶつかり合い。今後を担う実力派若手が結集した77年企画は、
妥協を許さぬ熱い同世代間戦争。

桃園会は私小説演劇とでも呼ぶもの。自分の魂を見つめ、わが身を切
り裂く。そこまで突き詰める創り手の業に圧倒される。いつもより上
増しのギャグが死の悲しみを増幅する。

メジャー系も金がかかっているだけじゃない、完成度の高さに納得。
地球ゴージャスは、ギャグ99%に大人の苦味をわずかにプラス。コン
サート並みの装置照明でエンタメを極める。再演「ウィー・トーマ
ス」は笑いを増量して人間の愚かさをよりシニカルに提示。自信あふ
れる長塚演出で明快さも増す。

「メタルマクベス」はシェイクスピア×クドカン×新感線のコラボが
これほど成功するとは正直予想せず。原作をこれだけいじりながら、
シェイクスピアの本質を抽出しており、しかも書き換えや書き加えた
部分が現代にフィットして非常にわかりやすい。クドカン得意の2つ
の世界を往還して最後に融合する劇構造のうまさにも舌を巻く。翻訳
松岡和子はこれを海外上演したいと語るが、映画化もいい。(雅)
5月
生誕250周年とあってマリー・アントワネットが日本でもブーム。宝塚
「ベルばら」は池田理代子のコミック、年末から始まる東宝「マリー・
アントワネット」は遠藤周作が原作。白羽ゆり、涼風真世そして今回の
大地真央の豪華さ比べも楽しみだが、アントワネットという歴史上の人
物をどう捉えるかの違いに注目。夏にキャラメルボックスの演出も控え
るマキノノゾミの演出やいかに。

エビス堂大交響楽団を解散したオカモト國ヒコの新ユニット娯楽園が始
動。山本操、梅本真里恵などおなじみの面々が揃う。次回以降は演劇と
他ジャンルのコラボも企画されているようで楽しみ。インディペンデン
トシアターグループでは他に末満がバートンズを旗揚げ。こちらもエン
タメ系関西小劇場に新風。バートンズには三谷恭子が出演、相変わらず
客演忙しい売込隊ビームの方たち。

おじさんが毎年がんばるシティボーイズ。東京じゃテント公演とか。公
演終了後のWOWOW放映も恒例。カムカムミナキーナはいい意味でいつま
でも青臭い。型破な勢いがかつての小劇場をほうふつ。野田秀樹が
NODA・MAPでスマートになった今、松村武こそ夢の遊眠社の正統な後継
者かもしれない。

前回もゲスト抜きで音楽劇に挑戦したスクエアが今回は漫才尽くし。漫
才ブームは続くが、転球劇場の解散が象徴するように笑いがウリの劇団
はひとつの節目を迎える。スクエアは音楽や漫才をテーマにしても人間
観察と演劇性が重視されてて好感が持てる。リリパは得意の男女入れ替
え劇を引っさげてウルマに初見参。劇団の地元玉造にも近い大阪城公園
内の会場に張り切る。庶民の人情劇を時系列で描くラックシステムに比
べ派手な演出に期待。

発砲・B・ZINのきだつよしがMA主演で「忍者NARUTO」を舞台化。岡幸二
郎、新妻聖子、愛華みれなど豪華出演者にびっくり。プリンセス天功の
イリュージョンが花を添える。豪華ダンサーの顔合わせが楽しみなのは
ダンスミュージカル「クラリモンド」。プロデューサー笹部博司はホン
ト自分が観たいメンツを集める。久々に大島早紀子の振付が堪能出来
る!!

壮大な野外劇を仕掛ける犯友が今年2度目の劇場公演。屋内でいいこと
は台詞がしっかり聞き取れること。長い独台詞を独特の抑揚で謳い上げ
る武田節にたっぷりと酔える。大人計画といいナイロンといい、いい役
者の宝庫。でも、おかしな大阪弁にはツッコミ入れますからっ。(雅)

4月
ファントマが今回は新作を携えての中劇場公演。出演者5人の前回プロ
デュース「SCARS」ではえん魔らしいハードボイルドギャグを凝縮。「ク
レオパトラ」は大人数ならではの遊びたっぷりに期待。

B.LET'Sの春を感じるチラシデザインに惹かれる。ちょうど満開の桜見物
のついでの観劇という不純な動機も許してもらえそうな色づかい。

宝塚花組は春野寿美礼が「アパルトマン・シネマ」、蘭寿とむ「スカウ
ト」そして桐生園加が「Young Bloods!!」と3チームに分かれて公演。
前回の「Young-」月組が拾いもの。圧倒的に若い生徒(平均研3.2)のがん
ばる姿に感激。普通のバウ公演だとぺらぺらっなのに有料のパンフも無
料配布。月組担当の藤井大介からバトンタッチされた齋藤吉正も演出家
対決で張り切らざるを得ない。

いつも長ったらしいタイトルで入力が大変なA級Missing Link。啓示に満
ちた箴言に裏打ちされたエンタメいっぱいのメタシアター。

New OSKが「春のおどり」も順調に3回目を迎える。「わが歌ブギウギ」
で笠木シズ子の親友を演じた桜花昇が女役でも芝居巧者だったのには
びっくり。宝塚のショー演出を手がけた横澤英雄や前宝塚歌劇団理事
長・植田紳璽の息子・山村若が構成・演出するのもレビューを守りたい
宝塚の支援。両劇団が競い合うことで関西のレビュー文化がさらに高ま
る。

朝日新聞が主催する大阪国際フェスティバルは毎回クラシックからバレ
エ、能まで取り揃え。本年のウリは上野水香のボレロの日本デビュー。
ギエムの後継者たるやわらかな肢体に目が点。

唐コンプレックス「調教師」は私にはまったくダメ。椎名桔平や黒木メ
イサなどの出演者や内藤裕敬の演出が悪いワケではなく、こけら落しさ
れたばかりのキレイな劇場で演ることがマチガイ。唐はぎゅう詰めのテ
ントに限る。照明も音響もチープな狭い空間の熱気。あの一体感に唐の
魅力は詰まっている。

ロイド・ウェバーの楽曲に期待大の「The Beautiful Game」。不満は2
階の後ろから5列目でSS席12000円はどーよ、ってこと。もっともS席
11000円、A席9500円と差はない。版権もしくはギャラ?なぜ高いか誰か
教えて。

清流は田中孝弥海外留学帰国後の第1作。土田留学中にMONOは劇団員の
退団があり残された5人で再出発したが、清流はにぎやかに客演を迎え
る。充電後の空気の変化を楽しみたい。(雅)

3月

第3回精華演劇祭が好調。「私たちは圧倒的に間違っている」とい
う大胆なテーマが功を奏したのか? 既に公演終了した烏丸スト
ロークロックと八時半を観る限り、過激さとエンタメが折り合う。
OMS戯曲賞受賞で波に乗るごまのはえと水沼健が後に続く。NC
Tにいたってはどん亀シリーズ連作3本の一挙連続公演。笑えるが
痛い、ごまのはえワールドにひたりたい。壁ノ花団に今のMONO
に欠けた部分を感じる。MONOは分裂して壁ノ花団という進化の
過程を歩き出したのかもしれない。

かつて共同でひとつの作品を作った売込隊ビームとヨーロッパ企画
が日本橋の通りを挟み、インディペンデントのファースト?とセカ
ンドに分かれて同時期に公演する。両者ともシチュエーションコメ
ディながらゲーム感覚と今どき会話が共通。日常性の亀裂からのぞ
くシュールな世界観で今後さらに成長すること疑いなし。
元惑星ピスタチオの遠坂百合子が小スペースでの試演を経て、いよ
いよ本格的にプロデュースを立ち上げる。リリーエアラインと銘打
つそれは西田シャトナーが演出も兼ねる新作でメジャデビュー。ピ
スタチオの憧憬と平和堂ミラノの鎮魂を連想するのは私ひとりの感傷か。
シリーズ終焉を迎えるのが近松劇場と月影十番勝負。どちらも関西
にゆかり深く感慨もひとしお。とりわけ近松劇場の終了に関しては
市の予算が演劇を含む文化面の削除につながらないよう望む。伊丹
アイホールの演劇ファクトリーの縮小ともども懸念ではある。
ドラマリーディングを劇的に見せる手腕に長ける岩崎正裕が得意の
2人芝居に挑む。戸川純と奇異保の組合せも魅力な「ラスト・デイ
ト」は詩人鈴木いづみとミュージシャン阿部薫がモデルとか。偶然
にも昨年12月に同じ題材を取り上げた風琴工房「サイケデリック・
フルーツパフェ」をアトリエ劇研で観たが、過去の検証それも演劇
的な捉え方がおもしろい。裁判などよりよほど有効な人間心理の解
明がなされるに違いない。

商業演劇の牙城、歌舞伎のシンボルたる松竹座に、ネオかぶきを標
榜する加納幸和が進出する。加納演出の「夏の夜の夢」はシェイク
スピアをどう料理するのか。「クラウディアからの手紙」に続きイ
デビアン・クルーの井出茂太が振付を担当するのも興味深い。(雅)

2月


野田地図が大阪に帰って来る。近鉄劇場閉館のあおりで途絶えていた公演が復活するの
はうれしい。椅子席を撤去できる劇場構造にも感謝。同時期にお隣のOBP円形ホールで
ラッパ屋が公演。ゾーン一体の文化交流で関西復興をめざす。

泣かせる芝居が2本、クラウディアとレインマン。人間はすごいと金がすべてらしい世
の風潮に向かって叫びたくなる。

アイホールでダンスが2本。じゃれみさとレニ・パッソ。観たダンスを言葉で表現する
ことは私には出来ないけど、ダンサーの絞られた身体がただただうらやましい。

精華小劇場という空間が芝居になじんできたのがよくわかる。演劇の神様も居心地良く
なるには時間がかかるものらしい。京都芸術センターもそうだが学校と劇場は相性がい
い。精力的に作品を発表し続ける鈴江節が、かつての教育現場にこだまする。(雅)



1月

お正月から原稿が遅れてすんません。初詣もしないっちゅうに要領悪くてあた
ふたしてました、許せ。

忠臣蔵が古典/新解釈でぶつかる。玉三郎のおかると仁左衛門の勘平、関西で
は稀有なうれしい顔合わせに対するは、花組芝居の加納がビッコロ劇団を率い
ての演出。役者はいいのに演出センスが新劇風時代錯誤に陥ってるピッコロに
加納のカンフル注射が効くか楽しみ。

ヘビープロデュースは知らない観客の方が多いはず。騙されたと思って観てく
ださい、前売・当日とも1000円だから。ときどき安モノ買いの銭失いってこと
もあるけど、これは大丈夫。日常をほのぼの描くだけなのに、怒りに共感し、
ときにせつなく、ラストはぽかぽか気分になれるから。人を見る目の暖かさ、確
かさを確認できる。烏丸ストロークロックが今春の精華の口開け、京都と大阪
の劇団の交流はもっとあっていい