新感線本公演としてはOMS最後となった「宇宙防衛軍ヒデマロV」。
奇しくも、いのうえひでのり30歳を記念して最後の?主演作品ともな
る。タッパのないOMSでフライングまでやってのけ、それでも綱の切
れない体重だった遠い過去の話。山の手事情社を退団したばかりの池田
成志が客演、薔薇男爵デューク・ローゼンを名乗ってあやしさの限りを
尽くす。終演後、パンフ購入者に役者のサイン会が開かれるのどかな時
代でもあった。もっとも当時から人気沸騰、桟敷もわが記憶で最大の密
集度、隣席と足指を踏みつ踏まれつの苦しい体勢も忘れ難い。
青い鳥、遊◎機械/全自動シアターや善人会議(現扉座)などがOMSを
足場にぞくぞく大阪進出。当時の東大総長の発言「太った豚となるより
も痩せたソクラテスになれ」に影響されたか、怠惰な「踊る」だけの会
議に愛想つかした一匹の豚が守旧派と対決する。肉布団で「太った」役
者たちが汗みずくで熱演、人が日常から覚醒する大切さをメッセージ。
鬱屈していた当時の私は「この熱さを求めていたんだっ」。小劇場開眼
のキッカケとなる。
セーラー服の少女が群舞する月蝕歌劇団。ローマへの少年使節や十字軍
など時空を超えた裏宝塚な演出、寺山修司の血脈を継ぐJ・A・シー
ザーのシンセ音楽に目を見張る。理屈抜きのアングラな世界、少女耽美
趣味に火をつける。
OMSと切っても切れない猫尻と少年王者館。数々の名演から1作を選
ぶは困難を究めるが、あえて選ぶなら「いとしいいとしいといふ心」初
演そして「それいゆ」。ひなびた温泉旅館を舞台に秘めたる恋の思い出
を描く猫尻。女優だけのほのぼの会話の底に、人の死が暗示される。劇
団員は移り変われど、猫尻にはいまも暖かい干したての布団の匂いがす
る。夕暮れと朝焼け、懐かしさと新しさ、少女と少年、少年王者館には
2つのイメージが常に重なり合う。時間と記憶、宇宙と極小世界を自在
に行き交う天野天街の脳内トリップが視覚化される。繰り返し巻き戻さ
れるシーン、解体される言葉、個人もまた宇宙を構成するパーツ、現実
もまた酔えど醒めない夢の続きなのかもしれない。
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